言語聴覚士
「話す」「聞く」「食べる」リハビリテーションの専門家、言語聴覚士(ST:Speech-Language-Hearing Therapist)が持つ道具といえば
聴診器 | 飲みこみのリハビリの際に使用します。のどの音や、呼吸の状態を確認することに使います。 |
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ペンライト | 口の中の動きや、構造を確認するために使います。食事やお話の際に必要な舌やのどの動きを確認しています。 |
絵カード | 話す、聞く、読む、書く、の練習場面に使用します。言葉の長さや、生活で使う回数によって、難易度が変わります。 |
鼻息鏡(びそくきょう) | 鼻息の様子を確認するものです。身体の麻痺(まひ)によって、鼻とのどをつなぐ弁(べん)が麻痺し、鼻咽腔閉鎖機能不全(びいんくうへいさきのうふぜん)を起こすことがあります。鼻に空気がぬけると、フガフガとした話し方になったり、飲みこむ力が弱くなったりするため、鼻に空気がぬけているかどうかを確認します。 |
ペンと白い紙 | うまく言葉を話すことが難しい患者(かんじゃ)さんとコミュニケーションをとることに使います。言語聴覚士が、文字や絵をかいて伝えることもありますし、患者さんが文字や絵をかいて伝えることもあります。 |
「話す」「聞く」「食べる」という誰でも自然にしていることが、病気や事故、老化によるからだの衰えなどで不自由になることがあります。また、生まれつきの障がいで困っている人もいます。言語聴覚士は、ことばによるコミュニケーションや飲み込み(嚥下:えんげ)が不自由な人に、リハビリテーションや相談などを行い、より良い生活を送ることができるようサポートします。言語聴覚士という職業は、比較的新しく全国的にも不足しています。高齢社会が進み続ける日本で、リハビリに関わる専門職としての需要はさらに増えていくでしょう。
言語聴覚士が行うサポートは、4つです。①「コミュニケーション」:発声や発音の障がい、後天性(こうてんせい)の言語障がい(失語症など)のある方の症状や発生のメカニズムを理解し、リハビリテーションを行います。②「聞こえ」:耳が聞こえない、聞こえが悪いといった聴覚の障がいのある方に、検査や訓練、補聴器のフィッティングなどを行います。③「飲み込み」:のどは声を出すほかに、食べ物や飲み物を飲み込んでからだの奥へと送る役割をしています。言語聴覚士は、飲み込みのリハビリテーションも行います。患者さんの障がいや年齢などを考えながら「ゴックン」が、しやすくなるよう安全に食べられる動作を考えたりもします。④「子どもの発達を支援」:福祉施設や病院、学校などで聞こえの障がい、ことばの発達や発音、コミュニケーションに不自由を抱えている子どもたちの手助けをします。
言語聴覚士は、出産や育児などで一時的に職を離れることがあっても、再就職が比較的容易な職種です。さまざまな経験が仕事に役立つ場面もたくさんあることでしょう。
また、日本言語聴覚士協会では、生涯学習プログラムを実施してスキルアップもはかっています。生涯学習プログラムを修了した方で、言語聴覚士としての経験が6年以上の人は、「認定言語聴覚士」の資格取得に挑戦することができます。資格は5年ごとに更新が必要です。
言語聴覚士は、医療機関だけでなく保健・福祉機関、教育機関など、幅広い領域で活躍しています。勤務先として最も多いのが病院や診療所などの医療機関です。次に多いのが介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど高齢者を対象とする施設、障がい者福祉センターや療育センターなどの福祉施設です。比較的新しい職業ですが、言語聴覚士の仕事が知られるにつれさまざま場所で必要とされるようになってきました。医療・介護の現場だけでなく、学校教育や児童関連施設の中で、言葉や聞こえに障がいがある子どもの支援に携わる人も増えてきています。
言語聴覚士がサポートする内容ですが、働く場所によって主な取り組みの中身が変わります。例えば、高齢者施設に勤務すると口から食べて飲み込むときのケアを行う機会が多く、療育センターなどでは子どもの言語発達の支援や発声、発語のトレーニングなどが中心になります。
働く場所
医療機関
大学病院や総合病院のリハビリテーション科、リハビリテーション専門病院、地域の病院、診療所などがあります。診療科で言うとリハビリテーション科、脳神経外科、脳神経内科、耳鼻咽喉科、小児科、形成外科、口腔外科などです。
病気やケガによる聞こえや言葉の障がい、飲み込みの障がいなどへの対処法を見つけるために検査や評価を行い、医師や看護師らと協力しながら機能回復のための訓練や指導、助言、再び社会で活動するための支援を行います。
介護・福祉施設
介護老人保健施設、通所リハビリテーション事業所、訪問リハビリテーション事業所、特別養護老人ホーム、障害者福祉センター、障害者支援施設などがあります。
老人施設では、介護が必要な高齢者の自立を支援するためのリハビリテーションを担当します。通所施設では、利用者の方が自分の家で安全に暮らせるように、コミュニケーションや飲み込み、認知機能の向上のためのリハビリテーションを行います。
障がい者支援施設では、ことばやコミュニケーションに関する訓練を行います。
教育・児童向け施設
小・中学校、特別支援学校、児童相談所、療育センター、肢体不自由児施設や重症心身障害児施設、言語聴覚士養成校、大学院などがあります。
言語聴覚士と教員免許を持つ人が、ことばや発達の遅れのある子どもを対象に、小・中学校の「ことばの教室」「きこえの教室」や、特別支援学校などで指導します。近年は、自閉症スペクトラムや学習障害などの発達障害への対応も増えています。
障がいがある子どもの発達を支援する施設では、食べたり飲み込んだりする機能訓練のほか、ことばや吃音(きつおん)※1のサポート、コミュニケーションに関する訓練などを行います。
※1吃音:言葉の障がいの一つで、同じ音をくり返したり、音がつまったりするなど、なめらかに話すことが難しい状態をいいます。適切な指導により改善することが可能です。
行政機関
公務員として保健所や保健センターで働く言語聴覚士もいます。保護者から子どもの言葉の発達の相談を受けたり、病気や事故による障がいについて相談を受けたりします。
働く場面
病院や施設、学校
言語聴覚士は、医師・歯科医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療専門職、ケースワーカー・介護福祉士・介護支援専門員などの保健・福祉専門職、教師、心理専門職などと連携し、チームの一員として行います。
医療機関においては、呼吸器リハビリテーション、難病患者リハビリテーション、脳血管疾患等リハビリテーションの施設基準に言語聴覚士が追加されたことで、活躍できる病棟や役割が広がっています。
地域
訪問看護ステーションや訪問介護リハビリテーション事業所などに所属して、利用者の自宅を訪問し、一人ひとりの暮らしに合う指導を行います。言語聴覚士による訪問リハビリを、歯科の訪問診療と組み合わせる病院も増えてきています。
政府が推し進めている地域包括ケア※2においても言語聴覚士の活躍が期待されています。公民館など地域の公共施設を訪ねて高齢者の皆さんが、心とからだの機能を保ち自宅で自立した生活を送れるようにサポートもしています。高齢者が誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)※3を発症し悪化させる割合が増えていることもあり、誤嚥性肺炎の予防や難聴対策のための講話や体操指導などを行うこともあります。
※2地域包括ケア:高齢者になっても住み慣れた地域で自立した生活を最期まで続けることができるように、必要な医療、介護、福祉サービスなどを一体的に提供し、すべての世代で支え・支えられるまちづくりをすること。
※3誤嚥性肺炎:うまく飲み込めなかった食べ物や唾液などが気管から肺に入り、炎症を起こしてしまう病気。飲み込む力が弱くなった高齢者に多い。
教育・研究
言語聴覚士指定養成校で教員として言語聴覚士を目指す学生の教育・指導を行ったり、大学院など研究機関で言語機能の研究を行ったりする人もいます。
仕事の様子を動画で見てみよう
国家資格のため、試験に合格して資格を取得します。そのためには、まず言語聴覚士養成校(文部科学省が指定医した学校、または都道府県知事が指定した言語聴覚士養成校)で学び、必要な知識と技術を身につける必要があります。養成校は、入学するのに年齢制限はありません。社会人になってから志す人もたくさんいます
インタビュー動画 実際に見てみよう
映画(DVD) | 英国王のスピーチ2010年 | ギャガ |
映画(DVD) | 潜水服(せんすいふく)は蝶(ちょう)の夢を見る2010年 | 角川映画 |
映画 | 聲(こえ)の形2016年 | ポニーキャニオン |
マンガ | 聲(こえ)の形 全7巻大今良時(著) | 講談社コミックス |
単行本 | こう見えて失語症(しつごしょう)です米谷瑞恵(著)、 あらいぴろよ(イラスト) | 主婦の友社 |
書籍 | 言語聴覚士(げんごちょうかくし)になるには中島匡子作 | ぺりかん社 |
360°ビュー
確認ドリル
のどの様子を確認する道具を鼻息鏡という
うまく言葉を話すことが難しい患者さんとコミュニケーションをとる方法として、ペンと白い紙を使うことがある
言語聴覚士が行うサポートは、大きく分けて「コミュニケーション」、「聞こえ」、「飲み込み」、「子どもの発達を支援」の4つである
言語聴覚士は、病院などの医療機関だけで働く職種であり、個人宅に訪問したり、介護施設で働いたりすることは仕事に含まれない
言語聴覚士は単独で仕事をすることが多く、医師や地域の医院と連携して仕事をすることはほとんどない
言語聴覚士は、高齢者が誤嚥性肺炎予防や難聴対策をするための講話や体操指導を行ったりする
言語聴覚士の仕事には、療育センターでの子どもの発声や発語のトレーニングを行うことも含まれる
言語聴覚士による訪問リハビリを、歯科の訪問診療と組み合わせるケースはない